これは新境地?

『聖域の殺戮』二階堂黎人
聖域の殺戮 (講談社ノベルス)

二階堂黎人の新刊です。二階堂黎人と言えば何度かここで感想している二階堂蘭子シリーズの作者です。江戸川乱歩を思わせる時代背景と頭脳明晰な名探偵と残酷な殺人者との対決を描いたシリーズが非常に面白い、好きな作家です。

やっぱりね、子供の頃江戸川乱歩怪人二十面相を読破した私としてはこの手の昭和初期テイストなミステリーには弱いんですよ。凄惨な殺人事件に残忍に殺人者、快刀乱麻な推理といい・・・


  
って、これスペースオペラじゃねぇかーーー!

うそぉん?スペースオペラかぶり(『ミイラ男』と併せて)かよ。カバー見たときから怪しい予感はしてたけど。しかも登場人物の大半が異星人だし、二階堂は何がしたいんだ!?

ところが(『ミイラ男』と異なり)読んでみると根っこは純粋な正統派(舞台を宇宙船と異星人にしておいて純粋な正統派と言うのももためらいますが)のミステリーであり、推理の過程などは楽しめたし、慣れてくると異星人も「ああ、そういうものなのか」という気になってきます。つまり、異星人について生態・思考共によく考えられているので「外人だな」程度の違和感しか感じなくなるということです。異星人のベースも木・猫・蜂・蟹とイメージのつくものなので尚更です。

スペースオペラが故にリアリティという意味では乏しいものの精緻な論理の積み重ねはさすがと言うべき代物です。

宇宙船『ギガンテス』は宇宙連邦認定の調査船である。今日も宇宙の謎を解くため、星々を駆け巡るのだって筋書きで、今回は最近連邦に加盟した惑星の衛星で発生する謎の殺人事件の調査です。ええ、戦争とかしませんしモビルスーツも出ませんから。

でもやっぱり繰り返しになりますが、異星人たちの描写がリアルかつ生き生きしているのが面白くて、電光石火で読んでしまい、今日に至るというわけです。オススメ