第2回ニートってそ(略

ニートって言うな!』本田由紀 内藤朝雄 後藤和智
「ニート」って言うな! (光文社新書)


二人目の内藤氏は本田氏の主張を受けつつマスメディアが如何にニートを商品化してきたか、そしてそれを受けて我々・社会がどうなってきたかを述べてくれます。もちろん、これだけでもわかりやすいのですが、この後リベラリズムに走り出し、ぶっちゃけアクの強い主張が面白かったです。

特にマスメディア批判(と一言で括るのもアレですが)はいい切れ味です。1997年の酒鬼薔薇聖斗に始まる「青少年ネガティブキャンペーン」というマスメディアの提供した「商品」群がいかに事実と食い違っているかを述べつつ、それに便乗した知識人・評論家に軽くケンカを売ってます。

(マスメディアとしては、良心的な専門家ほど発言に対する留保が多くて使いにくく、良心的な専門家としてはでたらめな事を言うのはプライドが許さないので、結果的にでたらめな事を言う専門家ほど発言力が大きいという構図があります。)
繰り返しますが、実際にメディアでバーチャル体験にのめりこんだくらいで、現実検討能力が失われると言う事は(中略)まずあり得ません「最近の若者はバーチャル世界と現実の区別がつかなくなった」などという発言をする識者たちの論理的な思考能力のほうがむしろ疑われます。

新聞であれテレビであれマスメディアで発言する専門家ほどロクなものはいない。マトモだとしても露出の少ないテレビの中で論理的な思考能力に基づく良質な意見を述べられるわけがない。そういうのを聞きたければもっと多くを語っている本を読めばいいわけです。しかし、発言力が高ければそれだけ儲かっているわけでそれはそれで羨ましい。ああ、そういうこと言っちゃいけないのか。

また知識人そして我々視聴者だけでなく裁判所もどんだけ踊っているかが指摘されます。佐世保の小学生による小学生刺殺、通称「NEVADAタン」事件です。俺ネラーじゃないからね。
これに関する長崎家裁佐世保支部がプレスリリースした2年間の施設収容について述べています。

背景としては、現行刑法では14歳以下については如何なる犯罪も当人に責任を問えません(これもおかしい話の一部ではありますが)。そして、劣悪な家庭環境にあるか精神科的問題がある場合のみ、施設に収容するとしています。

調査員「うーん、どんなに調べてもNEVADAタンの家庭環境に大きな問題はないなあ。「おとなしくて手のかからない子」といわれているだけで」
精神科医「こっちも問題ないですねぇ。軽度のコミュニケーション不足、感情分化の未発達があるくらいで。小さいんだから当たり前でしょう。それにナチスアイヒマンだってあんだけ平凡なパーソナリティの持ち主なんですから」
裁判官「だったら、責任問えないんだから今まで通り学校に通ってもらおうよ」
エラい人「いや、それではメディアが騒いで困る。凶悪な未成年が殺人をしたんだからちゃんと施設に収容しないと」
裁判官「でも、問題はないんですってば。そもそもこんな法律が変なんですよ」
エラい人「君クビ。家庭環境に問題があって、重度のコミュニケーション不足もあったとかでいいから2年間施設いれちゃえ!」

というのが実際あったかは不明なれど、これに近いやりとりがなされた上で決定した処分と述べてます。法律を改正してでも責任を受けさせるべきとか、精神鑑定が不十分とかは専門家ではないので私自身述べられないですが、社会全体で踊っているという点だけは事実のようです。

しかし一方で佐世保小学生刺殺事件の加害者女児(NEVADAタンっていうのはやめた)が極めて「普通」の範疇に入っていることは世間に広く知れ渡るところですからこれがまたマスメディアにとっていい「材料」となるわけです。あなたの子供もいつ凶悪な殺人鬼になるかわかりませんよ、と。内藤氏の言葉を借りればどっちが凶悪かマジでわかりません。