『セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴』島田荘司

ちょっとサンタクロースになってみた男の話
セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴 (講談社ノベルス)
島田荘司の御手洗シリーズの新作がノベルズになってました。
というわけで、前回紹介した『生贄〜』と一緒に買い、読むことにしました。ところがコレが結構面白い上にサクサク読めるのであっという間に読んでしまい、ここで感想を述べる次第です。

知る人ぞ知るというところですが、このシリーズは毒のあるホームズ御手洗潔とインテリでないワトソンである石岡によるミステリーのシリーズです。
今回は歴史的財宝(幕末にロマノフ王朝から日本に送られた)ダイヤモンドの靴を二人が(というより御手洗がその推理力を持って)探し出すという筋立てです。探し出したダイヤモンドの靴は優しかった祖母を亡くし、金の事しか考えない両親の元で生まれてサンタクロースから一度もプレゼントをもらった事のないけどそれでもいい娘に育っている女の子にプレゼントするという流れです。
うん、素直にクリスマスに読んでおけばよかった。時期をえらくハズしましたね。

このシリーズも長いのですが、それでも未だに飽きは来ず新刊が出るたびにこのように読んでしまいます。それはひたすらに御手洗潔というキャラクターと島田荘司の描き出す世界観に負うところが大きいです。
また分かる人には分かる例えですが御手洗潔と言えば独特の毒のある痛快な台詞とほんの少しの優しさ、そして脳医学、クラシックに精通した実に奥深い人物です。また女嫌いでもあるのですが、女の子を遊園地に連れて行き、遊んでいるのを見ている間のこの言葉

「ボウフラは可愛いな」
「どういう意味だ」
「池の水面近くでピョンピョンダンスして、ボウフラってとっても
可愛いんだぜ。それをずっと考えていた」
「・・・・・・・・・それで?」
「でも、そいつが蚊になると、オスは草の汁だけ吸ってふらふら
飛んでいって、人間にぺちんと殺される。メスは子育てという美しい
行為のため、人間の生き血をたっぷり吸うのさ。それが母性愛という
美徳の正体さ。」」

この皮肉たっぷりの物言いが実に痛快に感じられます。でも、ダイヤモンドの靴を見つけてサンタクロースとなるところがまた優しさというか人情を醸し出しています。


世界観については、後編でまた語りたいと思います。