『夢幻巡礼』西澤保彦 講談社

夢幻巡礼 (講談社文庫)

超能力ミステリー「神麻嗣子シリーズ」の番外編です。超能力ミステリーというと、どうしてもミステリーにおける、謎・不条理を解決するために無理矢理持ち出してくると言う印象を受けるかもしれません。密室なんてテレポーテーションさえあれば簡単に作れるし、時間移動があればアリバイだって思いのまま。ということは、逆に「超能力がある前提でミステリーを書く」ということは凄い難しいことだと思ってます。


その凄く難しい事をいつもいつも綺麗にミステリーとしてまとめてくれるのがこのシリーズの凄いところだなと常々思っています。とはいえ、超能力は必ず何かを代償にして発動する、超能力の発動は特殊な機械によって必ず検知できる、という縛り(ルール)はあるのですが。決して神麻嗣子萌えでこのシリーズを読んでいるわけじゃありません。言うと余計怪しいのに言うのは道化師の性ですからしかたないですね。


巧妙なトリックの割りには挿絵・キャラクターなども軽いので気楽に読めるのが尚いいところだと思っているのですが、今作は失敗しました(西澤氏がというのではなく、私が)。
連続殺人犯の心理(母親との確執、心理学的に言えば母子癒着)を生々しく描きながら10年の時を越えて行われつづける猟奇殺人を描いています。全体的にシリアス、言い方を変えれば暗い。軽いノリで見てたらエライ目にあいましたわ。

とは言え、超能力を利用したトリックと真相には相変わらずドキドキものです。超能力がルールに入るとトリックが読みにくくなる分、ワクワク感は楽しめるのでそういう意味では良作でした。