ネタバレ感想、邪魅

邪魅の雫京極夏彦
邪魅の雫 (講談社ノベルス)

「殺してやろう」「死のうかな」「殺したよ」「殺されて仕舞い
ました」「俺は人殺しなんだ」「死んだのか」「──自首してください」
「死ねばお終いなのだ」「ひとごろしは報いを受けねばならない」
昭和二十八年夏。江戸川、大磯、平塚と連鎖するかのように毒殺死体が続々と。
警察も手を拱く中、ついにあの男が登場する! 
「邪なことをすると──死ぬよ」 

今回のテーマは(多分)大きく分けて2つ。

  • 重なり合う「世界」「世間」
  • 動機ではなく、道具による殺人

て感じかな。

後者から、とは言え、後者は京極作品では今まで何度も言われているテーマですが。
動機なぞ後付けで、場や機会など、「風」が吹くから人は殺人するのだ、的な話。殺したくなるほどの怨恨が直接殺人に結びつくことなぞそうそう有り得ないという話。

我が身振り返ると、幼女を誘拐しないのはたまたまそうするシチュエーションや道具が揃っていないから。オイ、俺すっごい危ないじゃん。まあ、意図的にシチュエーションを揃えないようにコントロールしているんだけどね。むしろ私の場合は。

今回はその中でも道具、「毒」に焦点を当てています。殺意ありきではなく、毒があった(しかも非常に高性能な毒が)から殺人してしまったと言う話。相変わらず読ませてくれるんだけど、旧日本軍の開発した非常に高性能な青酸化合物って、スジは通るけど燃えないなあ。やっぱりもっとおどろおどろしくないと。


一方、重なり合う「世間」ですが、これも間接的には他の作品でもテーマになっていますな。凶骨が確かそうだった気がする。今回はより強く押し出されている気がするけど。
でも、このテーマ、手法も全体像がわかればスッキリするんだけど、個々の事象、ストーリーを追うだけでは謎ばっかりで、消化不良のまま話が進んでしまうナリね。
しかも、今回は誰が誰だかわからない(偽名の女性が多い)ので、尚更。全体像が見えればスッキリするんだけどなぁ。でも、これを前面に出すのはアレかと。


トータルでは、絡新婦の成り損ないな感じなので、哀れにすら思えました。最後、榎木津に嫌われて終わるしなぁ。まあ、前回の感想、位置づけ通り。