『スルメを見てイカがわかるか!』養老孟司・茂木健一郎 角川oneテーマ21(ややこしい名前だなぁ) 読了

スルメを見てイカがわかるか! (角川oneテーマ21)
バカの壁」という大ヒット随筆(失礼!)を生み出した養老孟司さんの対談本です。養老氏のアクの強さ(失礼!)を楽しめるのはやっぱり対談じゃないかなぁ・・・と常々思っていたのと、「バカの壁」は読んだので、こっちにしてみました。

「スルメを見てイカがわかるか!」という主張を簡単に要約します。我々は何かを見る際にその時間を見ているのでその何かについての本質がわかるわけない、ということです。養老さんの例で言えば、人間の生態を理解したいときは、その生命を止めて解剖してみなければいけない。そうしないと犯罪です。本当に知りたいのなら解剖せずに、殺すことなく見たいのに。ここで何故イカが出てくるのかは微妙ですが、イカを理解したいのにそれの干し物(既に止まっている物)であるスルメを見ていると、そんなんでいいのか!らしいです。

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あー、別にどうでもいいです。「情報」という言葉によって私たちが本来動的なものを静的なものに「落とし」て把握してしまっているという主張は共感できますが・・・
私のようなオブジェクト指向技術者兼プログラマーの場合は、システムを設計する時及びモデル化するときにはシステムの静的な構造も記述しますが、もちろん動的な構造も記述します。また、静的な構造から動作を頭の中で補完する癖がついていますので、この主張は「あっそう」って感じでした。最近こんなんばっかし。バカの壁

大体、この本養老さんに茂木さんがベッタリで対談にあるべき価値観のぶつかりあいがないじゃないですか(対談の起こし方にもよるんでしょうけど)。序盤茂木さんはセリフが2行か、養老さんの言葉を言い換えているだけじゃないですか。

何て思いつつ苦痛を微妙に感じながら読んでいたのですが、中盤(第三章)以降、急激に面白くなってきました。第3章は「原理主義」という言葉がテーマなのです。
私たちイとか言う頭文字のつく宗教のために原理主義という言葉にはとても恐怖感を覚えてしまっています。原理主義という言葉だけ取って見た場合、「物事の理(ことわわり)を例外なく定める主義」(適当に定義。多分あってる)という意味です。この「例外なく」ってところがとってもヤバい匂いがプンプン。ていうか実はとても危険。行き過ぎた結果がイ教の原理主義者。
それ以外にもこの本ではダーウィンの例(進化論における突然変異など)を挙げています。原理主義という言葉とそれとの戦い方が敬虔な学徒(出陣!)として非常にタメになった章です。うちの研究室にもオブジェクト指向原理主義者がいるので。
ここから茂木さんがちゃんと喋り始めるのもポイントなんですが(笑)

で、この章以降、結構面白くなってくる。第四章が「手入れの思想」です。
アメリカの国立公園は徹底して「自然保護」されていて、入った人のウンコ(ウンコと聞いてレミー・ボンヤスキーを思い出しましたが)すら持ち帰れ!としています。他にも、パプア・ニューギニアでは、ある島に入るのに靴の泥すら(植物の種がついているかもしれないので)落とさなければいけない。これらが「自然保護」なわけです。
でも、それって本当に人間のする「自然保護」であるかと問い掛けてみます。もちろん、木を切りまくれ!ゴルフ場ばんざーい!などと言うつもりはサッパリないのですが、僕は基本的に「無為自然」派なので、滅びるなら滅びれ、人間もね。と思っていました。ところがこの本ではそこに「手入れ」というワザを持ってくるわけです。先の例のように徹底するのではなく、思ったときにちょっと何かする。いいですねー、こっちがラクで(笑)。そもそも、自然ってそんなに弱いものじゃない。地震で何人死んだ?アーン?
この「手入れ」を人間の脳、無意識にとっても行えよ!って言う結びだったのですが、私は人間と神との関係も今の時代ならそんな感じでいいような気がするのです。神はいないというつもりはない、神はいるだろうけど、ちょっと祈ってみてちょっと幸せを授けてくれる。あとは人間が何とかする。こんな関係でありたいものです。