手が重くなる・・・

バーティミアス-サマルカンドの秘宝』ジョナサン・ストラウド 理論社
バーティミアス (1) サマルカンドの秘宝

最近は小田急線に乗ることが多いです。で、車内広告(網棚の上に貼られている)にこの本が広告されていました。真っ赤のバックにガーゴイルが印象的だったので、
「じゃあこの広告の下の座席で同じ本を(表紙が見えるように)読んでいたら、どんなリアクションが返ってくるだろうか」
というのがこの本を買った動機です。


不純とも呼べない微妙に過ぎる動機ではありますが、少年向けファンタジー小説を(ハリーポッター以来に)久しぶりに読みたかったのも事実です。体は大人でも心は少年ですから。

実力は十分ながら不遇な魔法使いの弟子ナサニエル。公衆の面前でバカにされた事をきっかけにある魔法使いへの復讐を計画します。悪魔(ジン階級)バーティミアスを召還し、サマルカンドの秘宝を盗み出しますが、サマルカンドの秘宝を巡る王家の陰謀に巻き込まれてしまい・・・

というストーリーです。

わかりやすくハリー・ポッターと比較していきながら感想を述べていきたいと思います。わかりやすいからね。

  • 魔法使いの力の源泉は悪魔

まずは世界観に関わる部分から。ハリーポッターでは、魔法の力の源は精霊であったりマナだったりしましたが、この本では魔法使いの力の源は悪魔ということで統一されています。小はインプから大はアフリート(イフリート)と呼ばれ階級分けされた多種多様の悪魔を召還し、命令を与えることで余人とは異なる超自然の力を行使します。
ハリーポッターに比べると少年向けの不思議感がグッと減少してはいるものの、悪魔のシステムが極限まで詳細化されていて、一つの世界観の構築には成功しています。あ、舞台は現代のロンドンです。

  • ロクな性格の魔法使いがいないという世界観

でもって、悪魔を使役する以上、愚かではいられません。曲解可能な命令を与えれば最大限曲解しますし、本当の名前を知られれば余裕で召還した主を裏切りますし、そのために最大限の努力を払います。こんなタチの悪いのを行使する以上、魔法使いの性格が善良で完成されているわけはないんです。
揃って意地悪で性格が歪んでいて、魔法の仕えない常人を見下す。それがこの物語における魔法使いの基本的なマインドになっています。ダンブルドアやマクゴナガル先生のようないい魔法使いは根本的にありえないんです。この世界では。
それはそれでアリなんだけど、性格の良い偉大な魔法使いがいないという制約があるのも確かで主人公であるナサニエルの師匠もロクなもんじゃありません。
この世界では「善人=魔法使いではない」という公式が自然と成立しています。ナサニエルの幼少のデッサンの先生とか、師匠の奥さんとか両方とも魔法使いではないもののナサニエルに優しく接し、失われる事による哀しさを描写しています(前者は辞めさせられ、後者は魔法使い同士の争いに巻き込まれて焼死)。

強きにへつらい、弱きをいじめるというロクでもない男を師匠としてナサニエルは育ちました。弟子の出来がよくても誇りに思わず、ますますいじめるという意地の悪さはナサニエルのダークな性格形成の原点になりました。ハリーにはダンブルドアという(性格も)偉大な魔法使いの師匠がいますが、そんなのいませんから。残念!
師匠は物語の中盤で敵に殺されてしまいます。同時に奥さんも死んだのですが明らかにナサニエルの悲しみと怒りは奥さんのみに向いていました。