• 『陋巷に有り10 命の巻』読了

ここで命とは、「いのち」ではなく天命・運命のことです。ひ弱な人間に対して天から与えられる命令のことです。


で今回はその命を受けて孔子を産む顔徴在の話です。徴在は孔子の故郷である顔儒の里の長老の末娘で特別扱いを受けて育ちました。舞踊の達人で自由奔放、泰然自若に育っていましたが(萌)、里の大祭で天から舞踊を通して命令を受け、その3年後に孔子を産むべく結婚をします。こんな感じのあらすじです


あらすじではいろいろはしょっていますが、酒見賢一氏の凄い所は古代中国の豊富な知識を背景にしてその中に生きた人物(実在であれ、フィクションであれ)を生き生きと描いているとことです。この世界では、まだ超自然の存在である鬼神、天が存在しておりその力を借りる「儒」(めちゃくちゃ曲解しながらわかりやすく言うと魔法、呪文です)
も大きなテーマになっていますが、そのリアルな描写がとても好きです。

例えば「蟲毒」という術。よくあるのは何万匹もの毒虫を壺に入れて地中に埋めて殺し合いをさせ、その中で生き残った1匹によって呪いをかけるという術です。しかし、この本の中では食物の中に寄生虫の卵を混ぜ、それによって呪う相手を衰弱させる術になっています。
このような呪文を現代の科学の視点で解説しつつ、その一方では古代中国の儒ならではの理屈が成り立っています。このように、かつて魔術・超自然の力とされていたものが現代科学で語られるのはとても興味深いところですね。


それを面白いと感じないかもしれません、超自然は超自然のままで楽しみたいと思うかもしれません。でも、タネが今の科学によって理解可能だとしてもそこにあるのは間違いなく超自然であること。それを楽しめる作品になっています。


蛇足ですが、吸血鬼なんかも科学的なタネ明かしはほぼされてしまっていますねぇ(by コリン・ウィルソン)この場合は、科学(血を好む奇病、死後膨張した体、ガスによる発声等など)だけでなく宗教(十字架を嫌う、処女の生き血を好む、狼・蝙蝠に変身するなど)もその超自然のタネの一端なんですが。でも、よく僕が吸血鬼と戦う夢を見るのは前世がヴァンパイヤ・ハンターだった証ですか?最近右手が喋るのですが(嘘)


というわけで、陋巷には超自然の存在を信じていた古代中国の人々がリアルに描かれていて大好きなんですね。まあ、祝融とか出てきますし。